「手塚治虫の漫画の描き方」ってどんな本なのか?
僕はこれまでたくさんの漫画の描き方系の本を読んできたけど、「石ノ森章太郎のマンガ家入門」と「手塚治虫の漫画の描き方」は不滅の本だと思っている。
中学生くらいのときに手塚治虫のマンガの描き方を買って以来、擦り切れるくらい何度も読み返してきた。
当時僕が購入したのは「マンガの心」という本だった。
「マンガの心」は、1977年に出版された「手塚治虫のマンガの描き方」を内容は同じまま改題したもの。
手塚治虫のマンガの描き方には漫画を描くうえで時代を越えて変わらない大切なことが書かれている。
ここではそんな手塚治虫のマンガの描き方に書かれている重要事項を見ていこう!
Contents
手塚治虫の漫画の描き方とは
手塚治虫氏はいくつかの漫画の描き方系の本を出している。
まだ初期のころの手塚治虫氏が出した漫画の描き方本が「漫画大学」。
漫画大学は1952年から1954年にかけて漫画少年という雑誌に連載されていた漫画を収録したもので、手塚治虫全集に未収録の作品がおさめられている
1977年、手塚氏は漫画史上に残る漫画の描き方名作本を発表した。
それが手塚治虫のマンガの描き方である。
手塚治虫の漫画の描き方は、これから漫画を描こうと思っている人へ向けた本。
手塚氏自身本のまえがきで、漫画を描いてみたい人へ向けた簡単な手引書という位置づけで紹介している。
しかし実際の内容を見てみると、かなり漫画表現の本質に食い込んでいるのだ。
●漫画表現の原点
●漫画の案の出し方や物語構成
●手塚治虫氏がどういう思いで漫画を描いてきたか
この3点は手塚治虫のマンガの描き方最大の見どころといえる。
手塚治虫のマンガの描き方には漫画絵の描き方も載っているけど、それは絵を記号として捉えたパターンの描き方だといっていい。
この本で描かれている絵の描き方の部分はさすがに昭和の時代の描き方なので、そのまま現代の漫画に当てはめると古いだろう。
手塚治虫のマンガの描き方で注目すべきは絵の描き方ではなく、漫画の発想の仕方や漫画表現の根本を教えてくれる点にあるのだ。
そしてここは時代が変わろうと普遍的に重要なポイントなのだ!
以下から手塚治虫のマンガの描き方に書かれている、漫画表現におけるとても大切なことについて取り上げていこう。
手塚治虫のマンガの描き方:漫画の本質は落書き
手塚治虫氏は漫画の描き方のなかで、漫画の本質は落書きであると述べている。
漫画は絵が描ける描けないに関係なく、誰もが作ることができる。
なぜなら漫画の根底には落書き精神があり、すべての漫画は落書きから出発しているからだと。
これは本質をついた言葉である。
僕も漫画表現最大の強みとは荒唐無稽で、子供のように純粋果敢で、自由自在に発想を広げていける、何でもありな爆発力のある表現にあると思ってる!
つまり「落書き精神」である!
上手さとか器用さとか、テクニックだとか、そういうのも大切だ。
しかし漫画が漫画らしく、圧倒的に漫画である根源には、バカバカしい落書き精神があるのだ!
この自由奔放な漫画の源をつかんだ上で、テクニックは初めて生きるのだ!
手塚治虫氏はこの重要なことを知っており、自身の作品で縦横無尽に生かしている。
手塚氏は絵が描けないなら棒人間でもへのへのもへじでもいいから、落書きで漫画を描いてみようとすすめている。
「漫画は落書き」の精神が核にあることで、漫画は無限大な表現の広がりを見せたのだ!
漫画の落書き精神は今現代においてこそ重要な認識といえる。
なぜなら現代の漫画は絵がとてもうまくなっている。
絵が上手いのは良いことだ。
しかし一番大切な、爆発力を持った落書き精神が忘れられかけてるのではないか?
漫画表現をここまで広げた力は落書き精神だ!
何でもありのデタラメな、縦横無尽な表現だ!
この漫画の核心を、手塚治虫のマンガの心は思い出させてくれるのだ!
スポンサードリンク
手塚治虫のマンガの描き方:漫画表現の大切な3つの要素とは?
手塚治虫の漫画の描き方のなかで、漫画表現における大切な3つの要素が書かれている。
それは
●省略
●誇張
●変形
この3点を見て分かることは何か?そう、落書きである。
手塚治虫氏は漫画の本質を子供の絵を例にして解説している。
子供の絵は感覚的だ。でも、そこが良いのだ!
その子供っぽさが漫画らしいのだ!
子供の描く絵には省略がある。
例えば子供は手の指や足の指を正確に描いたりせず、単純に省略して描くだろう。
また子供は絵を描くとき、対象を誇張する。
人の顔が異様に大きかったり、花やペットが人間以上に大きかったりするだろう。
子供の絵には変形もある。
例えば犬を描くにしても、自分が描きやすいように変形して描いたりする。
形がいびつでも子供たちにとっては犬なのだ。
このように省略、誇張、変形とは子供の絵に見られるものであり、これこそが落書きを構成している。
漫画の原点とは省略、誇張、変形を用いた落書きにあるのだ。
落書き精神とは絵だけを言っているのではない。
物語やキャラクターを含めて落書きのようなぶっ飛んだ爆発力が命だと、僕は思っている。
デッサンもヘチマもない。漫画を描く時に必要なのは描きたいものを思うがままに描き殴る落書き精神であり、そこに始まりそこに終わるのだと手塚氏は書いている。
素晴らしい言葉である!
これは漫画を描く初心者に対して手塚氏が書いていることであり、プロの漫画家に向けてのメッセージではないだろう。
しかし極端とも見える手塚氏のメッセージは、確実に漫画表現の核をとらえている!
手塚治虫のマンガの描き方:漫画は庶民の批評精神
手塚治虫氏は漫画とは庶民の批評精神なのだと書いている。
漫画は世の中に対する自分の思い、欲望を絵で描いて表現するのだと。
自分なりの社会に対する批評の目を持って、それをこそ漫画で描くのだと。
漫画家は社会批評家としての目も必要なのだ。
そして感じたことを漫画で風刺する。
生きる中で感じる思い、欲望、社会への批評眼…
こういったものを漫画を描いて風刺するのだ。
僕は社会に対する批評精神とか感じたことを漫画に描くというのは、漫画のテーマなんだと思う。
漫画を描くとき、その背骨となるのがテーマ。
生きるなかで感じた思いを漫画を通して表現しよう!というメッセージが本から感じられるのだ。
スポンサードリンク
手塚治虫のマンガの描き方:漫画の絵はウソを描くもの
手塚治虫氏は言う、漫画の絵はウソを描くものだと!
漫画の絵のウソとはどういうことか?
例えばミッキーマウスの耳はどこから見ても2つに見える。
本当なら重なって耳が一つしか見えなくなる角度もあるのに、常にミッキーマウスの耳は2つに見えている。
このようなことを漫画絵のウソと手塚氏は書いている。
例えば以下は漫画独特の誇張した絵であり、ウソを描いた絵だといえる。
例えば風が吹いてビルが弓のように曲がったり、驚いて目の玉が飛び出たりといった漫画の演出。
これら漫画のデタラメさ、ウソ、支離滅裂、荒唐無稽さが面白いのであり、漫画表現の生命なのだ。
ありえないウソやホラやデタラメを思いっきり漫画のなかで描き出す、そんな落書き精神こそが漫画の原動力だというメッセージが本の中にある。
「それは子供向けの漫画だからでしょ」という意見もあるかもしれない。
しかし大人ものだろうと子供向けだろうと、漫画の核心にあるデタラメな発想の爆発力!
これだけは漫画を描くときに絶対に忘れてはならない要素だと僕は思っている。
手塚治虫のマンガの描き方:道具の使い方
手塚治虫のマンガの描き方では漫画を描く際の道具の選び方や使い方についても書かれている。
ペンの使いかた、ベタの塗り方、修正やふきつけの仕方、仕上げの方法やスクリーントーンについて、漫画を印刷するときの知識なども書いてある。
要するに初心者が漫画を描くために必要な段取りがざっくり書かれているということ。
へぇ~、そりゃ親切だ。
これらはあくまで手塚治虫氏が活躍していた時代のやり方であり、現代の漫画描きが参考にするのであれば最新の本に当たった方がいいだろう。
当時の漫画はこんな風に作られていたんだなという資料的価値のある部分だといえる。
スポンサードリンク
手塚治虫のマンガの描き方:顔の描き方から構図まで
手塚治虫氏が主張する漫画の絵とは省略を行い、特徴を誇張して描くというやり方だ。
ミッキーマウスなどウォルト・ディズニーのような絵の描き方なのだ。
つまり手塚治虫氏は漫画の絵を記号としてとらえている。
本には顔の形、目の形、口の形などをパターンとして描く方法が書かれているのだ。
キャラクターの表情はパーツの組み合わせで作ることが出来る。
下のような汗の模様や、鼻の描き方なども、記号といえるだろう。
手塚氏は漫画の絵を記号としてとらえることで絵を作り、複雑な心理描写を描いていたのだ。
また漫画の人物はゴム人間を描くのだ、ということも書かれている。
手塚氏は一貫して漫画の絵に必要なのはデッサンの正確さよりも、面白さが優先すると主張する。
デッサンが必要ないというのではない。
デッサンは大切だけど、落書き精神や絵としての面白さこそが漫画の命なのだと。
他にも本では女性の描き方、効果音の描き方、キャラクターのリアクションのパターン、構図や背景の描き方にも触れられている。
手塚治虫氏独特のこれらの描き方論は、ところどころ学ぶことが多い。
本の中でキャラクターを作るときの個性の出し方についても、サザエさんを例にして書かれている。
そのキャラクターの特徴を強調することで個性をつけるのだ。
サザエさんならあの髪型がトレードマーク。
手塚氏は漫画のキャラクターはどことなく作者に似てくるものだという興味深いことも書いている。
これはまさにそうで、僕も自分のキャラクターを見るときどことなく雰囲気が自分に似ていると感じる。
漫画のキャラクターには作者の空気感がのりうつるのかもしれない。
また手塚キャラクターのひげ親父や写楽くんのキャラクターが出来る過程も書かれており、手塚ファンには興味深い内容となっている。
昭和の時代、漫画が子供の読みものだったころの懐かしい漫画。
漫画を先導してきた手塚治虫氏の、漫画に対する思いが読める点も本の見どころだなのだ。
手塚治虫のマンガの描き方:漫画家を目指す人へ向けたメッセージ
手塚治虫のマンガの描き方には漫画家志望の人に向けた手厳しいメッセージも書かれている。
漫画家というのは、1にも2にも漫画を描くことが好きで、描くことに生きがいを感じた人がなっていくのだと。
漫画家を目指す人のなかにはお金や地位、名声が目的でなろうとする人もいるかもしれない。
しかし漫画家に本当に必要なものは、漫画を描きたいという情熱であるということを手塚氏は以下のように書いている。
描くことの生きがいは、生活の確立とか、食うことの保障とか、ましてや、楽をしようなんて欲からほど遠いものなのだ。
だからもし、あなたがまかりまちがってプロ漫画家になろうなんて気を起こした場合には、作家なんて連中ともつきあわあず、編集部へ持ち込みなんかもせず、ただひたすらたくさんの量を描くことだ。
それを数年続けてすこしも執筆欲が衰えなければ、今度はたぶん何かの縁で先方から幸運が舞い込むだろう。
それまでの執筆の実績は天知る、地知るというわけである。
引用:手塚治虫のマンガの描き方より
胸を打つ言葉である!
スポンサードリンク
手塚治虫のマンガの描き方:案の作り方
僕は手塚治虫のマンガの描き方のなかで、とくに案の出し方の部分が参考になっており、いまだに何ども読み返している部分だ。
手塚治虫氏は漫画の案の出し方として、演繹法や帰納法を紹介する。
また四コマ漫画こそが筋だての基本であり、、四コマ漫画が描ければどんな漫画でも描けるということが書かれている。
具体的に四コマ漫画の起承転結を出して、作り方が説明されている。
手塚治虫氏が漫画の描き方のなかで言っている印象深い言葉をご紹介しよう。
漫画は本来、この冗談、つまりジョークとユーモアを売り物にするものだ。
そして読む方を面白がらせ、カタルシス、すなわち気分をサッパリさせるためのものである。
これのともなわない漫画は漫画ではなく、何か別の分野のものだ。
引用:手塚治虫のマンガの描き方
この発言にも漫画の精神は落書きにアリ!という言葉のニュアンスを感じる。
と同時に、当時の手塚氏のライバル的位置にあった劇画に対する意思表明のようにも感じられる。
手塚治虫型の子供っぽい漫画に反発して生まれた劇画。
劇画は手塚漫画のライバルとなり、劇画によって手塚治虫氏は悩まされた。
やがて自身も劇画の手法を取り入れるようになる手塚漫画。
しかし心の中では漫画とは劇画ではなく、ジョークやユーモアを売り物にする落書き精神にあるのだと言いたかったのではないだろうか。
手塚治虫のマンガの描き方:物語の作り方
手塚治虫のマンガ家入門で案の出し方と並んで役に立つのが、物語の作り方の部分だった!
手塚治虫氏はお話好きになることが物語が作れるようになるコツだと書いている。
つまりいろんなジャンルの物語にたくさん触れて、ストーリーのパターンを自分の中に取り入れるということ。
実際手塚治虫氏は幼いころからお伽話を読み聞かせてもらっていたり、落語や漫画が大好きだった。
これらたくさんの物語に触れてきたからこそ、物語のアイデアが次々に浮かんでくるのだろう。
手塚治虫のマンガの描き方では、漫画を作る際の台本の書き方まで解説されている。
台本とは映画などに登場するキャラクターのセリフや動き、背景指示などが書かれたもので、手塚氏は漫画を作るときも必ず用意しているという。
台本の作り方としてシノプシス、箱書き、シナリオの例作も載っており、物語を作るときの構成が図入りで書かれているので、とても参考になったのを覚えている。
そして手塚治虫氏は漫画のテーマの重要性を説いている。
物語には、自分が言いたいことがはっきりと現れている必要があるのだと。
手塚治虫氏が鉄腕アトムに込めたテーマは、人間対ロボットの葛藤だった。
人間のロボットに対する差別やさげすみ、立場が上の者がする仕打ちへの疑問を描きたかったのだという。
ブラックジャックもリボンの騎士も、皆「人間関係のあつれき」がテーマとしてあったらしい。
他にも手塚治虫氏を象徴する漫画のテーマに「生と死」がある。
漫画の裏には、作者のメッセ―ジでもあるテーマが潜んでいる。
このテーマが作品に深さや厚みを増すのだ。
スポンサードリンク
手塚治虫のマンガの描き方:漫画は最後の1ページまで描く
手塚治虫氏は長編漫画を描く第1のポイントとして、漫画を最後まで描くことをあげている。
これはすごく大切なアドバイスで、長い漫画になると途中で飽きてしまい最後まで漫画を描き終わる人が少ないのだ。
長編漫画を描こうとする人は初めは8ページくらいでオチのついたものを描くようにすると、途中挫折を防ぎやすい。
また長編漫画を描く時のポイントとして新機軸をぶちかます大切さについて書かれている。
ただ長い漫画を描けばよいというわけではなく、何かしら新しい要素を取り入れてみようということ。
手塚氏は戦後の漫画に映画的な手法を取り入れて、悲劇など劇的なドラマを漫画で描く方法を編み出した。
画風とか主人公の性格に新しさをというのではなく、物語を含めた全体のムードに対してこれまでにない新しい感覚を持たせてみようというメッセージだ。
小さくてもいいからその人にしかできない新しい漫画表現を試してみる意識を持つ。
そのためには以下の3点を心がけると良いという。
1:あまり、他の漫画作品(ことにプロの)を見ないこと
2:深く考えすぎず、ただマイペースで描くこと
3:描いている途中で人の意見を入れないこと
引用:手塚治虫のマンガの描き方
ここに続いて、手塚治虫氏は手の描き方や足の描き方、キャラクターの動作や感情の描き方のパターン、人物のプロポーションや雨風の描き方などを絵で載せている。
最後にはふろくとして、手塚氏から漫画が描きたくなった人へ漫画を描くためのコツが書かれている。
漫画はどんなふうに描いてもいいのだ。
漫画の生命は自由奔放な面白さであり、これまさに落書き精神!
しかしどんな漫画を描こうとも基本的人権だけは守って描くように、というメッセージがある。
最後に印象深い手塚氏のメッセージを書いてみよう。
漫画家は漫画以外の教養が最後にモノをいう。
つまり漫画を描く人は漫画だけを読んでいてはだめで、文学や科学書、評論集や紀行など幅広く知識を取り入れている必要があるということ。
人生体験や読書や名作などのバックボーンから、漫画作品は生まれるということだろう。
手塚治虫のマンガの描き方の最後に
手塚治虫のマンガの描き方は、漫画をこれから描いてみたい人へ向けた優しい手引書的な位置づけの本だった。
しかし中身を見ると、漫画表現における忘れてはならない原点や、アイデア、物語の作り方などの重要事項が書かれている。
この部分は現代においても変わらず大切であり、漫画描きが吸収しておくべき要素だと僕は感じている。
手塚治虫のマンガの描き方は、絵がある程度描ける中級者くらいの人に向いた本だろう。
また手塚治虫氏がどのようにキャラクターを作り、思いを込めて漫画を描いてきたのかということが書かれており、興味深い内容だ。
手塚治虫のマンガの描き方は絵の描き方などテクニックを読むというよりも、まさに漫画の心、魂の部分を吸収すべき本だ。
漫画創世記を作り上げてきた巨人の、漫画に対する真摯な思いを込めた手塚治虫のマンガの描き方。
忘れてしまった漫画表現の原点に立ち返りたい人にとって役に立つ本だろう。