似顔絵と肖像画の違いって何?
似顔絵と肖像画には、似て非なる違いがあるのだ。
筆者は以前、似顔絵と肖像画を描く活動をしていたことがあります。
そのなかで、似顔絵と肖像画の違いを感じました。
この記事では似顔絵描きと肖像画描きを体験した筆者が思う、似顔絵と肖像画の違いについて解説していきます!
肖像画と似顔絵の違いとは?
肖像画と似顔絵の違いは、そこに絵描きとしての表現性が入ってるかどうかだと筆者は考えます。
似顔絵は、対象の顔を似せて描く絵です。
似顔絵では、相手の顔に似るように描く必要があります。
肖像画は絵描きとしての表現を含めた上で、相手に似せて描く絵です。
その画家特有の描き方で、対象を似せて描く絵といえるでしょう。
例えばイタリアの画家モディリアーニは、首や顔の長い独特な肖像画を描きました。
客観的にみればモディリアーニの描いた肖像画は、相手の顔を正確に写しているとはいえないでしょう。
しかしモディリアーニらしい描き方の中では、相手の印象をとらえた肖像画となっています。
モディリアー二という画家の個性で、人間を描いた絵なのです。
だからモディリアーニの絵は似顔絵ではなく、肖像画となります。
ゴッホも同じですね。
オランダの画家ゴッホも、いろいろな人の肖像画を描きました。
例えば赤ちゃんを描いたゴッホの肖像画は、ごつごつしたゴッホ様式で描かれています。
客観的に見た時、ゴッホの描いた赤ちゃんの絵は似ていないかもしれません。
しかしゴッホ特有の描き方で赤ちゃんを描いているから、ゴッホ様式の絵としては赤ちゃんに似た作品となるのです。
対象の顔をそのまま似せて描くのが似顔絵なら、画家の個性を使って対象に似せて描くのが肖像画といえるでしょう。
筆者が似顔絵を描いていた頃に感じた肖像画との違い
僕は2005年頃、似顔絵師をやっていたことがあります。
その時は、以下のような似顔絵を描いていました。
目の前に人が座り、20分~30分くらいで一人の似顔絵を描きます。
似顔絵では顔の特徴をつかみ、相手の顔に似せて描かなければいけません。
そんな似顔絵描きをしているときに、思いました。
似顔絵とは読んで字のごとく、顔を似せて描く絵。
そうか、分かった!
顔を似せて描くと、似顔絵なんだ!
どんな画材で描いても相手の顔に似せて描いたら、似顔絵となります。
相手の顔に似せることを目的として絵を描いた時、それが似顔絵だと感じたのです。
以下の絵は、筆者が2017年に描いた友人の肖像画(油彩)です。
上の肖像画では、筆者が友人に対する思いも含めて顔を描きました。
上の絵は顔を似せるだけでなく筆者の友人に対する思いも一緒に描いているので、肖像画になるのです。
同じ人の顔を描くにしても、以下の画像は似顔絵とは呼ばないでしょう。
上の絵は筆者の自画像なので、ぼくの肖像画といえます。
しかし上の肖像画は、自分の顔に似せて描いてません。
ぼくは上の肖像画で、自分の本質を表現したのです。
表現として人の顔を描くと、似顔絵ではなくなってしまうこともあるということ。
似顔絵描きと肖像画描きを体験した筆者からすれば、似顔絵では相手の顔に似てるかどうかが大切だとわかりました。
肖像画との違いは、描く絵に画家の表現性が入ってるかどうかです。
もちろん似顔絵描きにも、絵描きの表現性はあります。
しかし似顔絵で出す表現は、あくまで相手の顔に似せるために使うもの。
相手の顔と判別できなくなるほどの表現性は、似顔絵では使わないのだと思います。
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肖像画とは何か?
wikipediaで調べると、肖像とは「特定の人間の外観を表現した絵画や写真、彫刻」とあります。
つまり肖像画とは、特定の人間の外見を描いた絵といえる。
肖像芸術は、古代ローマの時代から彫刻で制作されていました。
古代ローマ時代に作られた肖像彫刻は、写実的で理想的な姿として作られています。
19世紀に写真が発明されるまでは、写真のかわりとして肖像画が描かれました。
写真がない時代は、画家が写真家のかわりに肖像画を描いていたのです。
そのため肖像画は、相手にそっくり似せて描かれます。
しかし19世紀に写真が発明されてから、状況が変わりました。
写真を使えば、時々の姿を思い出に残しておくことができます。
それまで肖像画家がしていた仕事が、写真にとってかわられてしまったのです。
このため肖像画は写真にはマネできない、独自の価値を持つ必要にせまられました。
こうして画家の個性が入った肖像画が登場します。
例えば印象派のルノワールやゴッホが描いた肖像画などです。
印象派や後期印象派の時代には、まだ相手に似せて肖像画を描く風潮がありました。
しかし20世紀にはいると肖像画は、相手に似せて描く必要性からも解放されます。
画家の表現性が第一に置かれた肖像画が登場してくるのです。
その代表が、キュビズム時代のピカソの肖像画です。
ピカソは自分の恋人の肖像画をキュビスムの様式で描きましたが、その絵は誰が描かれているのか分かりません。
似顔絵と肖像画の違いを体現するゴッホ
写真が発明されたのちに活躍したゴッホ。
ゴッホは肖像画を描くとき、画家としての表現を打ち出しました。
たとえば強烈な色彩やゆらぐような短い描線によって、内的な思いを絵に象徴させています。
ゴッホは相手の顔をただ似せて描くのではなく、画家としての個性を加えた肖像画を制作したのです。
ゴッホの描いた肖像画には、人の顔に似せる以上の目的が存在します。
それは画家としての「表現」です。
表現とは、画家というフィルターを通して見えた対象を描くということ。
この表現性が入ってるかどうかが、似顔絵と肖像画の違いだと思います。
例えばAさんを描く、2人の絵描きがいたとしましょう。
Aさんの顔の外見的特徴だけを描いたら、それは似顔絵です。
しかしAさんに対する印象や思いなどを画家独特の表現を使って描いたら、肖像画。
絵描きの思いや感覚を、人を描くことによって表現した場合、それは肖像画となるのです。
もちろん画家としての表現性を一切含めなくても、絵画として相手を描けば肖像画といえるでしょう。
しかし似顔絵と肖像画を分ける決定的な違いは、以下にあります。
●似顔絵は相手の顔に似せて描くことを目的とした絵
●肖像画は画家の内的な思いを、人を描くことによって表現した絵
相手に似せて描くという共通項を持つ、似顔絵と肖像画。
しかし両者は、似て非なるものだったのです。
相手の顔を似せて描くのか、絵描きとしての表現を打ち出すのか、という違いです。
似顔絵や肖像画に関する定義はいろいろあると思いますが、筆者は上のような結論にいたりました。